高松高等裁判所 昭和30年(う)420号 判決
一、被告人浜田貞一の行為は権利に基く抗議であつて、執行吏はその抗議を承諾し被告人等の搬出を許容したもので隠匿の観念を入れる余地がないとの主張について、
しかし記録を精査するに原判決挙示の証拠により、被告人浜田貞一は八幡浜市千四百七十番地株式会社明地商店において松山地方裁判所所属執行吏藤本茂雄が債権者株式会社十合の依頼を受け、執行力ある判決正本に基きその債務者である右明地商店の二階に陳列してあつた衣料品の差押手続中、その強制執行を免れる目的をもつて、執行吏が拒むのにもかかわらず強いてそれ等の衣料品を被告人山下常光及び同店店員数名をして階下に運ばせてトラツクに積み込ませ、八幡浜市東矢野町八幡浜殖産株式会社の倉庫に運搬収納して財産を隠匿し、被告人山下常光は同所において被告人浜田貞一が前記強制執行を免れる目的で財産を他に運搬隠匿するものであることを知りながら同人の依頼に応じ、明地商店店員数名と共に前記衣料品を同店二階から運び降した上これをトラツクに積み込み、もつて被告人浜田貞一の前記犯行を容易ならしめて幇助した各事実を肯認するに十分であり、所論のように執行吏が搬出を許容したのではない。被告人等が搬出して運び去ることを力をもつて差し止めることができなかつたに過ぎないのである。論旨は到底認めるに由なく理由がない。
一、隠匿とは秘密に追従の不可能な状態において行われる行為であり公然と眼前より搬出し去る行為は隠匿に該当しないとの主張について、
(一) しかし刑法第九十六条の二にいわゆる隠匿とは強制執行を実施する者に対しその財産の所在を不明ならしめる行為を指称するのであつて、必ずしも執行着手前に秘密裡に行われたことを要するものではなく、執行吏の執行に際し、その眼前より執行吏の承諾を得ることなくほしいままに搬出し去り執行吏にその所在を不明ならしめた行為も隠匿である。又その場合執行吏はこれを追従し得たにかかわらず追従しなかつた為に遂に持ち去られたものとしても些も結論を異にすべきものではないから本件論旨も理由がない。
一、被告人等が搬出した物件は総て被告人浜田貞一がかつて明地商店から買受けた上同商店に販売を委託してあつたもので、株式会社十合が明地商店に対して有する債権の強制執行として差押を受くべきいわれがなく、強制執行の不正免脱を図つたものではないから刑法第九十六条の二の罪を構成するものではない、同条は債務者でない第三者である所有者が蒙ろうとする迷惑を免れる行為を所罰する法意ではないと思料するとの主張について、
(二) 刑法第九十六条の二は債権実行の為の強制執行の安全を担保する法意と解すべきところ、その保護せらるべき強制執行は執行吏の抽象的職務権限に属しその具体的行為が一応適法な職務の執行行為であると認められるものであればよいのである。従つて差押をしようとする目的物である動産が債務者の営業所二階にその商品として陳列してある以上、何人も一応右商品が債務者の所有に属し差押を為し得るものと考えるのが普通であるから、藤本執行吏が一応これを債務者の所有に属するものとして明地商店に対する執行力ある判決正本に基き強制執行に及んだのは正に適正なる職務の執行であると言わなければならないのである。その執行の対象物件の所有権が真に債務者に属するや或は第三者に属するやは後日裁判所の判断に待つべきであつて、苟も適法な強制執行手続中一方的意思をもつて目的物件の所有権を主張し、数名の人を使つて強いてその場から搬出し、もつて強制執行の継続を中止せしむるが如き行為は許容せらるべき限りではない。仮りに真実右物件が被告人浜田において明地商店から買受けたもので同被告人の所有に属し明地商店に販売を委託してあつたものとしても、前記の如き行為に出た以上即ちそれは強制執行を免れる目的をもつて財産を隠匿したことに該当し、刑法第九十六条の二はこれを処罰する法意であり、犯罪の成立を否定し得べきものではない。論旨は採ることはできない。
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)